どうも短期記憶がダメだ。
ひとつ入ってはひとつ抜けてゆく。
「この間買ったカーディガン着てみた?」
と友だちに聞かれた。
ん、カーディガン?!買ったっけ?
「ほら、わたしとの待ち合わせの前に買っちゃったって見せてくれてじゃん」
見せたんだ、ほら、って。
誰が見せたんだ?わたしが見せたんだ?!
パラレルワールドに迷い込んだのかもしれない。カーディガンを買ったわたしのいるパラレルワールドに買わなかったわたしが来てしまったのだろうか。買ったわたしも今頃困っていることだろう。
その友だちと多摩地区のローカルインディアに入って向かい合ってごはんを食べている場面が浮かんできた。傍らには確かによく服を買うショップの紙袋がある。袋の中を確かめてみる。ああ、袋の中はまっしろだ。何度見てもまっしろだ。何か手がかりは見えないだろうかとのぞいて見てもまっしろだ。
ええ、どんなカーディガンを買ったんだわたし…
「グレーっぽいやつだったよね?」
グレーのカーディガン?
グレーのストライプのトップスは確かに買った。デニムと一緒に買った。同じ店で。でもカーディガンは…ん〜…あ、あれか!グレーでオレンジの縁取りがあるやつ!!
「そうそう、それ!すごい気に入ったから買っちゃったって言ってたじゃん!」
気に入ってたんだ、わたし。それもすごく気に入ってたらしい…
「そーいえばさ、あのレンコンチップス、おいしかったよね」
今度はレンコンチップスかぁ。
うんうん、やめられなくなるよね、あれ。
…ととりあえず言うものまたまた記憶にない。
うわぁ、やっぱパラレルワールドに来てしまったのかわたし??
レンコンチップスの話題はそれまでと相成り別の話題へと移った。
友だちと別れて家に帰りお風呂に入る。
シャンプーで頭を洗っていた時、ふと記憶が蘇った。
ああああ!あのレンコンチップスか!!
ローカルインディアでごはんを食べたあと、急遽その友だちの家に行くことになった。その時友だちへの差し入れがてらに買ったのが富澤商店のレンコンチップスだったのだ。
あのことを言ってたのか!!
こうやっていろんなことを忘れて行くのかな。
執着のないことからどんどん消えて行くのかもしれない。執着を以前ほどには持てなくなって来たかもな。過去にも未来にも。
それとも今までとはちがう何か別の新しいものを探し始めたのだろうか?
最期まで覚えていることってなんだろう?
ちなみにわたしの母方の祖母は、戦争で死に別れたと思っていたが実は生き別れだったことがわかった昔の恋人との純愛に満ちた想い出だった。
わたしは…なんだろう?
セキセイインコの匂いかな。