昔、村上春樹の『ノルウェイの森』を今はもう彼岸にいるおねーちゃん(正確にはおばにあたるのだが、本人から「おねーちゃん」と呼ぶようお達しがあった)が「これいいよ」と大学生のわたしに貸してくれた。
人が貸してくれた本をまともに読んだ試しがなく、だいたいは「なんかおもしろかったよ」などと曖昧なことを言いながら返すハメになる。
『ノルウェイ…』も最初はそんな感じで読み始めたのだが、気づいたら読了していた。あの薄明に満ちた静寂な空気感が病み傾向にあったわたしの精神にポカリスエットのようにスッと染み込んでいった。
それからいくつか村上春樹のものを読んだがタイトルも覚えていないくらいに終わった。
そんなころにまた後輩男子が『風の音を聴け』をくれた。自分が読んでよかったからくれたんだったと思う。それも読んだ。
『アンダーグラウンド』も読んだ。
けれど結局それほどハマることなく時は過ぎた。
『1Q84』が文庫になった頃、読んでみた。6冊全部読んだ。最後の最後で「むむう…」となった。ここまで付き合ったのに最後これかい?みたいな。どんな最後だったか忘れたくらいだ。
そして今、文庫になった『村上さんのところ』を読んでいる。本屋をプラプラしているときに平積みになっていた。「あ、フジモトさんだ!!」
そう、イラストが今は亡きフジモトマサルさんである。闘病の末に46歳という若さで亡くなられた。大好きなイラストレーターだったので訃報に触れた時は本当にショックだった。絵もストーリーも大好きだったのに。もっともっとフジモトさんの作品を読みたかった…(天国に行ったらぜひぜひお会いたい、ご迷惑でなければ)。
『村上さんのところ』のイラストがフジモトさんの遺作だったように思う。
フジモトさんは大好きだけど村上さんはなぁ…と書店店頭でダブルバインド状態に陥った。中身をパラパラとめくる。フジモトさんのイラストや漫画がちょくちょく載っている。もうこうなったら中身は読まずにフジモトさんのイラストと漫画だけ見ることにしよう、と思いレジに向かった。オマケ欲しさにグリコのキャラメルを買っていたのを思い出した。
さて、実際に見始めると、イラストと村上さんの文章がリンクしていることに行き当たる。そりゃ当然だ。
仕方がないので中身も読んでみた(オマケだけじゃなくて、ちゃんとキャラメルも食べなくちゃね)。
世界中の「ハルキスト」やそのご家族やご子息などからの雑多な質問とそれに対する村上さんの答えが載っている。それが結構おもしろいのだ。なーんだ、村上さんってこんな人だったんだ。
ハルキストと村上春樹はイコールではないんだな。ハルキストたちが奇しくも村上春樹のイメージを作ってるのかもしれない。当の村上さんご本人も当惑されてる模様で、「(ハルキストではなく)『村上主義者』と言って欲しい」と。周りに隠れてイケナイ本を読むが如くコソコソイソイソと村上春樹を読む、みたいな。
今のこの時間にも地球上のどこかで村上主義者たちが密かにこそこそと村上本を読みふけっていることだろう。