ずっと前のお話。
友人と喫茶店に入った時のこと。
店員が注文を取りに来た。
ケーキセットを頼んだ。
すると店員が
「コーヒーか紅茶、どちらにしますか」
と聞いて来た。
「紅茶でお願いします」
さらに
「紅茶はレモンとミルク、どちらにしますか」
と聞いて来た。しかしどういうわけか
「メロンでお願いします」
と答えてしまった。
レモンとミルクの語感がまざってメロンになったのだろう。
「あ、メロンじゃないですよね、ハハハハハ、レモンで」
といい直したが、厨房にオーダーを伝えに行くその店員の後ろ姿の肩が小刻みに震えていた。必死に笑いをこらえているのだろう。
すると厨房の方から数人の笑い声が聞こえた。
ウェイトレスが堪りかねて話したのだろう。
相当ウケたようだった。
注文したケーキセットを今度は違う店員が運んで来た。そいつも必死に笑いをこらえているのがわかった。
「笑っていいんですよ」
って言ってあげた。
今思うと、そんなにウケたならいっそのこと紅茶にメロンを入れてくれたらよかったのに。マスクメロンでもプリンスメロンでも少しはあっただろうに。パフェ用のとか。
もう鬼籍にお入りになられた赤瀬川原平氏の歴史的名著『老人力』。
耄碌したりやヨレヨレになることを「老人力」と定義する画期的な概念を打ち出した本である。
「きみもかなり老人力がついてきたね!」などとお互いに褒め合い、自慢し合うという世界観を世の中に提示したのである。ベストセラーにもなった。
その続編『老人力自慢』にこのお話が載っている。「老人力」を公募し、赤瀬川氏らによる選考に残った作品をまとめたものである。応募したら選ばれちゃったのである。
出版元の筑摩書房から老人力テレカ(テレフォンカード)と赤瀬川氏の直筆サインが送られてきた。とっても嬉しかったのを覚えている。
ちょっとした自慢である。