このところ暇さえあれば寝床に入ってしまう。おふとんの中で本を読んだりまどろんだりしている。こうしている時間がなによりもラクだ。
こんな感じなので、ピアノを弾くところまでなかなか辿り着かない。半期に一度の演奏会までひと月を切ったのにな。どうなることやら。
寝床で読むのはムーミンシリーズ。
小さい頃にムーミンのアニメを見たことがあったが、なんかモヤモヤしてるなと思っていた。
ムーミンは人気のあるキャラでグッズもたくさん売っているし、結局は可愛らしいほんわりしたものなのだろうとタカをくくって読まずにいた。
ムーミンの本はなかったが、家には背丈が140センチくらいと思われるビニールのニョロニョロがいた。ニョロニョロの足元に重りが入っており、ぽいんぽいんパンチをしてはニョロニョロが起き上がる、というものであった。
起き上がりニョロニョロの1代目が空気が抜けてお別れし、2代目を連れて来たがあっという間に空気が抜けてしまってそれきりだ。
ニョロニョロは目が見えない、耳も聞こえないとは知る由もなかった。
冬眠中のムーミンが起きてしまう話がある、というのをつい最近どこかで知って、これは読んでおかないといけないと思った。それが『ムーミン谷の冬』との出会いだった。
ムーミンシリーズには火山の噴火や洪水や台風など自然災害がよく出てくる。
人間はほとんど出てこない。
底辺には鬱が横たわっているのを感じる。
ムーミントロールやスナフキンを始めいろんなキャラクターが登場するが、みんな気分の浮き沈みが激しい。シベリウスの交響曲『フィンランディア』を想起させる。鬱全開の曲想から始まり、鬱がタン、タカタカタッタンと高まり途中からグワーっと躁全開に転換する感じと重なる。
空気が冷たくなる季節は鬱が目覚めやすい。
自分の中に鬱を発見したのはジャメヴ体験をした小学六年生の頃。
それから数年は鬱が膨張してどうにもならなかった。
自分で引き受けるしかないと悟り、飼いならすことにした。いわば持病のようなものである。
鬱には効用もある。
どんな効用かは秘密。
鬱がきたらとりあえず付き合ってあげる。
ふとした拍子にやってくる。
なんとなくの鬱、だったり、ちゃきちゃきの鬱、だったり程度の差はあるけれど。
その度に最初は動揺してしまうものの、次第に鬱に歩み寄って行く。
鬱でいるのもそんなに悪くない。
ムーミンシリーズや内田百閒の『東京日記』などを読んだり、バッハの『フランス組曲』やキリンジの『ペイパードライヴァーズ・ミュージック』や『47'45"』などを聴きながらまどろんだりして鬱と戯れる。曇り空や晴れ渡った青空の午前中や昼間は絶好のまどろみ日和だ。
そんな時は同居のインコたちも優しくしてくれたりするから不思議だ。
やがて胃腸から抜けていく時もあれば、小さくしぼんでいく時もある。
うつといっしょ。
そんなときがあってもいい。