へっぽこるみ日記。

毎日毎日日が暮れる。半期に一度の即興ピアニストのつれづれ。

脳内日記 その三。

朝起きた時、口の中がなんだか不慣れな感じがした。

とりあえず洗面所に行って鏡の前で口を開けてみた。

下の前歯がいつもより大きく見えた。

今度は上と下の歯を合わせて見てみた。

よく見るとなんと上の歯と下の歯が入れ替わっていた。

どうりで下の前歯が大きく見えたわけだ。

ドキドキしながら歯を磨き、急遽かかりつけの歯科の予約を入れた。

 

「やあ、今日はどうしたんだ〜い?」

行きつけの歯医者は今日もアメリカ映画の吹き替えのような喋り方だった。

「朝起きたら上の歯と下の歯が入れ替わっていたんです」

「こうなったのは初めてなのか〜い?」

「はい。」

「そうか。それならびっくりしちゃうな」

「え…これってよくあることなんですか?」

「うん。『土用噛み』っていうんだけどね、土用の丑の日近辺に起こることがあるんだ。歯科医の中でも知らないヤツが結構いて『これは大変!』とデンタル撮ったり大学病院に紹介状書いちゃったりしてね、ハハハハハ。遺伝的な要因が大きいとかいう人もいるんだけど本当のところはまだよくわかってない。でもね、土用が過ぎればまた元に戻るから大丈夫だよ。」

「大丈夫、といってもそれまでの間どうしたら??」

「通常通りの生活で大丈夫だよ」

「だって見た目が変でしょう」

「気になるんだったらマスクでもしておくといいさ。人なんて案外そんなところまでは見てないもんだぜ、経験者かぼくみたいな歯科医でもなければね」

歯科からの帰り、コンビニに寄った。

スティック野菜と鮭おにぎりと念のため使い捨てマスクを買った。

レジの店員が私の顔を見て「いらっしゃいませ」とごく普通に言った。

「869円になります」

「では1009円で」

「はい、1009円お預かりいたします。140円とレシートのお返しになります。ありがとうございました」

なるほど大丈夫だった。

家に帰って、スティック野菜と鮭おにぎりを食べたがほぼいつも通りに食べることができた。

 

夕方、珍しく知り合いと夕飯の予定が入っていた。

「や、久しぶり」

「ほんと、いつぶりだろね。元気にしてた?」

「まあなんとかやってたよ。君のほうは?」

「ああ、こっちも相変わらずすぎるくらいだよ」

差し向かいで食事をして話をしているのに相手は一向に気づかなかった。

なるほど、人なんて案外見ているようで見ていないんだなと実感した。

早く土用が過ぎてくれるといい。