近所の楽器屋で買ったハイドンのピアノソナタの楽譜を二冊と近所のスーパーで買ったレタスやサニーレタスなどの品々を持って家まで歩いていた。頭にはハイドンのピアノソナタが鳴っていた。
「あの、すいません」
とギトギトした後期中年のような男が近づいてきた。同じく後期中年と思われる女連れであった。
「おねえさんさ、あの、田舎から出てきてわからないんだけど、この辺に宿とかある?ラブホじゃなくてもいいんだけど」
ないこともないので教えてあげた。
「いや、田舎から出てきたもんでね」
とその男は繰り返し、軽く礼を言って去った。
頭の中のハイドンはいつのまにか鳴り止んでいた。
ごめんよ、ハイドン。