もう随分前のこと。
自分の部屋のベッドですやすや眠っていた。
あれは晩夏だったろうか。
部屋はマンションの共用廊下に面していた。
廊下側に格子のついた小さい窓がある。
蒸し暑かったので窓を細く開けて寝ていた。10センチはなかったように記憶している。
網戸は閉めていた。
ベッドは窓に向かって縦に置かれていた。
そして窓の方に足を向けて寝ていた。
足元にふと違和感があり目が覚めた。
何かがいた。
ひぇえ。
恐る恐る確かめるとネコだった。
うちにネコなどいない。
「ヤバい、インコがいる!こいつがインコを襲うかもしれない!!」
とっさに思った。
パニックになった。
別の部屋で寝ていた家族を起こした。
「ネ、ネコがいるんだけど!インコどうしようインコどうしようインコどうしようインコ…」
尋常ではない私の様子を見た母が、ネコを促し玄関ドアから廊下に逃がそうとした。けれどもネコはUターンしてまたうちの中に入ろうとした。
「インコがいるからインコがいるからインコインコインコ…」
再びパニックになった。
そんな私を横目に母は冷静にネコを追い出した。
それからしばらくは鼓動が収まらずなかなか寝付けなかった。
朝の四時くらいだったと思う。
明くる日の夜。
やはり蒸し暑かったので、昨夜のように窓を細く開けてすやすや寝ていた。
するとまた足元に違和感があった。
また昨夜のネコが来ていた。
もうパニックにはならなかった。
「どっからきたの?」
問いかけてみるも答えはない。
玄関ドアから追い出そうとネコに近づくと、窓枠にトンと乗って窓と網戸の隙間からすり抜けていった。
なるほど昨夜もそうやってこの部屋に入ってきたんだねキミは…
よくみるとグレーのきれいなネコだった。
その日を境に再び侵入してくることはなかった。
どこの家のネコだったのだろう。
今となっては楽しい思い出である。