梅雨時は気怠く眠い。
全身全霊で湿気を吸ってしまうのだろうか。
まあこの気分も今やこの時期の風物詩となっている。
今日、府中から電車に乗った。
ふと睡魔がやってきた。
しばし微睡む。
ぱっと目を開けたら、前のシートに座っている人たちが全員入れ替わっていた。
そんなに寝てたのか。
調布だ。
準特急で一駅行っただけ。
ま、調布でたくさん降りて乗ってきたんだな。
眠気に任せてまだ寝入る。
そしてふと目を開ける。
わ。
また変わっている。
しかも今度は全員カンガルーだ。
しどけなく足を組んでいたり、貧乏揺すりしていたりそれぞれ思い思いの格好をしている。
同じ車両は自分以外カンガルーだ。
思わず『カンガルー日和』という言葉が浮かんだ。
村上春樹だったよな。
千歳烏山から随分カンガルーが乗ってきたようだ。
「この電車は当駅、千歳烏山から先頭車両はカンガルー専用車両となります。お客様のご理解ご協力をお願いいたします。」
とアナウンスが入った。
なんだそうなのか。
仕方がないので意地になって10両編成の一番後ろの車両に移動した。
ここまで来ればカンガルーはいなかった。
運良く座れたのでまだ眠くなってうとうとした。
そして目覚めると、車内が相撲取りだらけになっていた。
明大前だ。
「最後尾車両は明大前から十両力士専用車両となります。お客様のご理解とご協力をお願いいたします」
ま、10両目だしこれは致し方ない。
もう意地になる気力もなかったので隣の車両へ移るにとどめた。
眠気は去っていた。
次の停車駅、笹塚では都営線直通本八幡行きに乗り換えるお客たちが降りていった。
笹塚を出発するとトンネルに入る。
すると車掌が珍しく車内を回ってきた。
そしてわたしを見るなり声をかけてきた。
「すみませんが手のひらを拝見させていただけますか」
「え?どうしてですか」
「お客様がお座りのシートは生命線が短い人の優先席になっておりまして…」
後ろを振り返ってみると確かに窓には生命線が短い手のひらのイラストの上に『優先席』の文字が配されたシールが貼られていた。
車掌に手のひらを見せると、
「あ、このくらいの長さならお座りいただいて結構です。どうも失礼いたしました。」
と深々とお辞儀をすると車掌室へと戻っていった。