このところ囲われて生きている。
といっても、裕福な紳士に、とかではなく、半透明のビニールにだ。
住んでいるマンションが大規模改修中なのだ。ベランダの塗装のための養生で、ベランダ側の窓に外側からビニールが貼られている。
そのため外が見えない。窓も開けられない。
木見えないし野鳥の声も聞こえない。風とセッションもできない。
文字通り囲われた中で生きている。
一緒に暮らしている母も大変だ。
もともと不安定な状態の彼女がこの状況下で朝から晩までこれまでと違った感じであらゆる不調を訴え続ける。一種の拘禁反応のようなものなのだろう。
そうかといって「拘禁状態」から避難するために外に出るのも暑すぎるし彼女にとってはハードルが高い。
「なんであんたは平気なの?」と母が聞く。
「終わりがわかっているからだよ。二人で同じように取り乱しても仕方ないからねぇ…」
「なるほど」と母が納得。だからといって母の拘禁反応が緩和するわけではない。
二人のインコちゃんたちは本当によく頑張ってくれている。
なので、小まめに労いの言葉をかけている。
通じるんだよね、これが。もう本当におりこうちゃんたちだ。
そんな中で土曜日のやりたい放題本番に照準をじりじりと合わせていく。ベランダの窓のビニールが外されるのも改修の業者によると予定では土曜日だ。
「苦悩は歓喜への前奏曲である」と言ったのはベートーヴェンだ。
高校の時の音楽の先生が卒業アルバムに書いてくれた言葉だ。
よし。
前奏曲を味わうことにしよう。