朝8時に起きた。
今日は半年に一度開いている演奏会の日だ。
大学の時の同期とふたりで開催している。
今回で八回目。
どんな演奏になるかな…と思っていると「今日は行かないほうがいい」という声にならぬ声を聞いた気がした。
空耳かと思った。
しかしメッセージの内容はまるで明確な啓示のように頭の中に直接入って来たのである。
「今日は行かないほうがいい」
「今日は行かないほうがいい」
「今日は…」
啓示は何度も繰り返された。
どこから聞こえてくるのか、誰が言っているのかさっぱりわからなかった。
そう言われても困る。
出演者が行かないわけにはいかない。
それでも声はやまない。
「今日は行かないほうがいい…今日は行かないほうがいい…」
どうしよう。
お客さんにも相方にも悪い。
そんなことはできない。
葛藤の最中にも容赦なく啓示は繰り返された。
「今日は行かないほうがいい」
「今日は行かないほうがいい」
これは余程行かないほうがいいのかもしれない。
無理を押して行ってしまって何か事が起きてからでは取り返しがつかない。
しかし行かないこともまたもれなく別の取り返しのつかない事柄を運んでくるのは分かりきっている。
今後の演奏会ができなくなるかもしれない。
どうしよう。
とりあえず相方にメールをしよう。
「のっぴきならない事情で急遽会場に行けなくなりました」
いや、これでは説明になっていない。
「『今日は行かないほうがいい』という何かからの啓示が朝からずっと来ていて、皆さんにご迷惑をかけるかもしれないので大変申し訳ありませんが今日は行けそうにありません。本当にごめんなさい」
これでいいかな。
いや、行かないほうが皆さんに迷惑だよな。
ああ、これもダメか。
もう開演時間だ。
会場のお客や相方がざわついているのが脳裏に浮かぶ。
皆さんごめんなさい。
でもああどうしよう。
相方には何てメールしよう。
何て…
…というところで目が覚めた。