コロリウィルスが蔓延している。
マスクが全国のあらゆるお店で品薄状態だ。
ドラッグストアには徹夜で並んでマスクを求めるひとの列ができたり、量販店のパーティーグッズコーナーにあるクイズでおてつきした人用の赤いバッテンのついたマスクも品切れになっているらしい。
そういえば近所のホームセンターにキティちゃんの形のマスクやわんわんマスク(犬の口の形のマスク)がかろうじて残っていたが「おひとりさま一枚でお願いします」と注意書きがしてあった。その前でうろうろしている人が何人かいた。買おうかどうしようか迷っていてのだろう。そのうちのひとりの男性は結局わんわんマスクを手にとりレジに向かっていった。
そんな中、ある特殊な「職種」の人たちの現場に思わぬ変化が生じている、という新聞記事を読んだ。
彼らの仕事の必需品の一つがマスクなのである。
仕事中はマスクで顔を隠すのが基本だ。
仕事場はコンビニや郵便局、スーパー、個人宅など様々だ。昔は銀行や信用金庫なども得意先だったらしい。
刃物やマイバッグなどを持参して顧客に「金を出せ」と迫るのがおもな業務内容だ。
ところが、コロリウィルスの影響で顧客の反応に変化が現れたという。
以下はいつも通りマスクで顔を隠し、顧客の家を訪れた時に実際に行われたやりとりだ。
「金を出せ!」
「あ、マシュクだ!パパ、このひとマシュクしてるよ!」
「うるせぇ、ガキ!黙ってろ。いいから早く金をだせ!」
「お、お金??出します出します。だからそのマスク、いただけません?」
「え?なに?このマスクでいいのか?」
「もちろんです。本当は未使用のものがいいのですが…この際マスクなら何でも構いませんので是非…」
「警察に通報したらタダじゃおかねえ!」
「警察に通報するよりマスクが必要なんです」
「わかった。やるよ」
「本当ですか!?!おい、マスクくれるってよ!」
「わーい、パパやったね!マシュクだマシュクだ。ほら、ママ、マシュクマシュク!」
「ほんとだ、マスクだね!なんて親切なお方なのでしょう。ありがとうございます」
「あ、新しいのも…あるぞ。3枚」
「それもお願いします!是非!ああ助かった!」
「よかったわね、あなた」
「わーい、マシュクだマシュクだ!」
「よかったわね、ぼうや。ほんと、あなたは命の恩人です」
「わ、わかったよ。やるよ。だから早く金出せ。あるだけ出せ。そしてこの袋に入れろ」
「3枚もいただいて…お金はこちらに入れればよろしいでしょうか?」
「そうだ。その袋の中にだ。早くしろ」
「わかりました」
「あ、もう一枚あったぞ。これもやるよ」
「いいんですか、こんなにいただいてしまって…」
「いいよいいよ。家にいっぱい買ってあるから」
「もう…なんとお礼を言ったらいいか…」
「礼などいいから早く金入れろ!警察にも通報すんな!」
「もちろんですよ。通報してもマスクはくれませんからね。地獄に仏、とはこういう時のことを言うのでしょうね。本当に感謝いたします」
「おじちゃん、マシュクありがとう」
…こんな具合でこの業界、どうやら思わぬ好景気に見舞われているらしい。