やっと時代がきたな、とほくそ笑んだ。
そう、おひとりさまの時代が来たのだ。
独身さまの時代が…
「おひとりさま一点限り」との表示をいろんなところで見かけるようになった。
ハンドソープの詰め替え用を買おうと行きつけのホームセンターに行った。
「おひとりさま一点限り」と書いてあった。
よしよし。
ひとつ手に取った。
世の中はコロリウイルスの蔓延でハンドソープが品薄状態だ。
主婦らしき女性がハンドソープを手にした。
するとGメンが現れた。
「わたしく、おひとりさま監視Gメンの東郷と申します。あなた…『ご家族さま』ですよね?」
「ち、ちがいます。」
「では…その薬指の指輪…結婚指輪ですよね?」
「…」
「『おひとりさま』と書いてあるのがお分かりになりませんでしたか?では…商品をお戻しになってこちらにいらしてください」
Gメンが女性を連行していった。
トイレットペーパーも買っておこうと思い、売り場へと足を運んだ。
そこにも「おひとりさま一点限り」の貼り紙がしてあった。
よしよし。
ひとつ手に取った。
初老の女性がうろうろしていた。
トイレットペーパーが欲しかったのだろう。
薬指にやはり指輪が光っていた。
商品に手を伸ばした途端、Gメンが来た。
「あなた、ひょっとして『ご家族さま』では…」
「あ、この指輪は死んだ主人からもらった指輪で…」
「では未亡人の方ですね。『おひとりさまシルバーナンバーカード』はお持ちですか?」
「ああ、ございますよ」
女性はカードをGメンに見せた。
「結構です。未亡人の方なら問題ありません。これからはお買い物をされる際には指輪をお外しすることをお勧めします」
「わかりました」
ちなみにわたしは『おひとりさまゴールドナンバーカード』を持っている。ここのGメンたちには顔が知られているので提示を求められることはまずない。たまに新入りのGメンが提示を求めたりするが、そんなときは上司Gメンが即座に「この方は『おひとりさまゴールド』だから」と新入りをたしなめ「どうも新入りが…大変失礼いたしました」とその場を取りなすのが恒例だ。
「おひとりさまゴールド」は婚姻歴のないちゃきちゃきの独身に交付される。伴侶を亡くした場合は「おひとりさまシルバー」、離婚の場合は「おひとりさまブロンズ」が交付される。
キッチンペーパーも買っておこうと売り場にいった。
ここにも「おひとりさま一点限り」の表示があった。
よしよし。
ひとつ手にとる。
子連れの男性もいた。
男性がキッチンペーパーを手にするとGメンがすかさずやってきた。
「あの…ご一緒にいる女の子はあなたの…」
「ああ、娘です」
「ということは『ご家族さま』ですね?」
「まあそうですが」
「これ、『おひとりさま』限定商品ですよ」
「妻とは離婚して子供の親権をわたしにしたものですから…」
「なるほど。独身親用の『おひとりさまブロンズナンバーカード』はお持ちで…」
「あ、家に置いてきてしまいました」
「困りましたねぇ…それがあれば…」
「あ、さっき市役所で住民票を取ってきたのがあります。それでも構いませんか?」
「はい。あと本人確認を出来るものがあれば…」
「免許証があります」
「ではそちらも拝見します…確認できましたのでどうぞ。お買い物の際はカードを必ず携帯してください」
「わかりました」
そう、以前は「おひとりさま」はなにかと邪険にされてきた。
それがこのところ逆転してきたのだ。
「ご家族さま」は今や大変だ。
世の中どう変わるかわからない。