やっと時代が来たな、とほくそ笑んだ。
そう、お籠もり様の時代が来たのだ。
コロリウイルスが世界に蔓延して、東京でも猛威を奮っている。
東京ネズミーランドや年増園などの人気スポットも軒並み臨時閉園に追いやられている。
自宅でエレワークが推奨されみんなパソコン等にかかる電気代など自腹を切りながら朝から晩まで家で仕事をしている。
事業所が閉鎖されたパートタイマーは収入を断たれ、カロリーオーバーメイトを食べて凌いでいる。
学校が臨時休校になった児童生徒たちは忖度授業から解放されて生き生きしている。
国や自治体からは感染に関する正確なデータや金銭的補助は何も示されず、命令ばかりを寄越してくる。
「買いだめするな」
「人との接触は3.5メートル距離を置け」
「花見はするな」
「集会は開くな」
「マスク不足だからマスクは作れ」
「消毒液不足だから消毒は唾液でまかなえ」
そして今日、ついにこんな命令が出た。
「家にこもって出てくるな」
家にこもって出てくるな、と。
家にこもって出てくるな、って…
こんな日が来るなんて…
これまでお籠もり様はなにかと憂き目を見てきた。
理不尽な同調圧力や不可解な役割分担から避難したくて家で引きこもりを始めてからもうどれくらい経つだろう。
卑怯だ一族の恥だでくの坊だ大学まで出してやったのになんて様だ何だと親戚縁者を問わず言われ続けてきた。
それがなんとみんな口を揃えて「家にこもれ」と言うようになったのだ。
新聞、雑誌、テレビのワイドショーなどいたるところで「家での籠もり方」が特集されている。
そんな中で取材を受けることも多くなった。
どこでどう名前を聞きつけてきたのか知らないが、毎日のように取材依頼のメールや電話がひっきりなしに来る。
家への籠もり方がわからなくて困っている人がたくさんいるらしい。
今では「家籠もり専門家」として紹介されることも増えた。
先日政府が立ち上げた「家籠もり対策委員会」の座長を務め、政治家や官僚相手にレクチャーするほどになった。
世の中どう変わるかはわからない。