このところ東京はめっきり原っぱが多くなった。
隙あらば原っぱを潰してマンションやら住宅を建てていた頃が嘘のようだ。
コロリウイルス騒ぎで高度成長期に祖先が東京に出てきた人たちが軒並み元いた地域に戻っていったことも多少影響しているのかもしれないが…
昔に比べて静かになった。
夜空も綺麗になった。
電車も混まなくなった。
本数も減ったけれど。
コンビニも自販機も随分減った。
野良猫も増えた。
野良インコも増えた。
野良猫も野良インコを捕まえたりせず仲良くしている。
それにしても本当に雑草が増えた。
かつては舗装されていた道路も国や自治体の財政破綻によりまったく整備されず、ひび割れたところから雑草が生え放題だ。
おかげで夏のヒートアイランド現象は解消した。
そしてさらに雑草の変異も起きていた。
最初に気づいたのは、建設作業員だった。
整地され雑草が生えていた土地に新たに建築物を建てる時だった。
かつてその地には古い木造アパートが建っていた。
それを取り壊し、整地してしばらくそのままになっていたので雑草がメキメキ生えていたのだ。
新しい建物を建てるにはまず雑草の駆除だ。
その作業員はいつものように雑草を処理し始めた。
手には作業用の白い軍手をはめていた。
「いたいよう」
と小さな甲高い声が聞こえた。
「なんか今声がしなかったか?」
と一緒に作業をしていた作業員に話しかけた。
「いや、聞こえなかったっす」
「そうか、空耳か…」
再び除草作業に戻った。
「あれ…なんだこれ?」
「どうした?」
「いや、なんか、軍手に変な赤いものがついてて…」
「うわ、ほんとだ。なんだこりゃ?わ、俺の作業着にもついてるわ」
「いたいよう」
またさっきの声がした。
「なんっすか、今の声?」
「聞こえたろ、お前も。」
「はい。ヤバイっすね」
「気味悪いわな」
「そうっすね…あれっ?」
「なんだ、どうした?」
「草の切り口から…赤いものが…」
声の主は草だった。
赤いものは草の血液だった。
そう、草を刈ると切り口にヒトと同じ赤い血が滴るようになったのだ。そして「いたいよう」と言う声も上げるようになったのだ。
こんなことが各地の建設現場で起きた。
そして次第に雑草を刈るということをしなくなっていった。
今日もいつものコースを散歩した。
草をかき分けかき分け歩いた。
注意しないと時々踏んでしまって草に怒られる。
「いたいよう」
…と。