余命宣告を受けてから命を閉じるまでの坂本さんの様子を記録したドキュメントだった。
音楽を聴く体力がない、と言って手元にある音の出る小さなものたちに耳を傾けていた。
亡くなる数時間前には、ベッドの上で仰向けになったまま虚空のピアノを弾いていた。
それが最期の場面になっていた。
そうか、命が尽きる寸前までピアノを弾いていたんだ、坂本龍一は。
よかったなぁ、と思った。
どんな曲を弾いていたのだろうか。
どんな音が鳴っていたのだろうか。
どんな音が聴こえていたのだろうか。
自分があちらの世界に行った時、万が一お会いできたらぜひ伺ってみたい。
お会いできるようにこれからも精進していかないと…
「…音楽だけじゃなくて、文学や哲学や思想もそうですけど、すでに死んだ人たちから滋養を得て、死んだ人たちの残したものと対話しながら育ってきて、いまだにそれを続けているわけですよね。ぼくらが死んだ後にこんどは未来の人間たちがはたしてぼくらの残したものと対話してくれるだろうかとよく考えます」
と、生前にどこかで語っていた坂本さん。
今いるこの部屋にある楽譜はほとんどすでに死んでしまった人たちが遺してくれたものだ。それらと日々対話をしている。音源にしてもそうだ。ピアノという楽器だってそう。
時の流れと人の流れ。
この世とあの世。
いろんな次元を思い描きながら暮らしていきたい。