本を探しに神保町へ行く。
横尾忠則が精神世界にはまっていた頃の文春文庫が欲しかった。
新刊と古本の両方が見られる神保町はいい。
Amazonで買うのとは違う風情がある。
京王ライナーの車両だった。
ラッキー。
これで快適に神保町まで行ける。
ムフフ。
悲劇は千歳烏山を過ぎたあたりで起きた。
手持ちのリュックのポケットのジッパーを開けようとしたらジッパーが裏地の布を巻き込んだ。
ライナーの快適気分が一気に吹き飛ぶ。
それからはひたすらジッパーと格闘するもまったく明るい兆しが見えない。
ジッパーは起点からほんのわずかにいったところで布を食い込んだのでそれ以上は開けられない。
ポケットの中にはビスケットやどこでもドアではなくスマホ、ウォークマン、そしてパスモが入っていた。
何としてもパスモだけは取り出したい。
どうにもつっかえて取り出せない。
「ジッパーが布を噛んだ時は前進あるのみ」とどこかで読んだことがある。
こんなピンチの時は「夜にはきっと何とかなっているんだろう」とぼんやりと考えてみたりする。
ジッパー前進を試みるも顔が熱くなるだけで進みやしない。進んでいるのは電車だ。ああもう新宿か。こんな時に限って都営線内は各駅に止まらない。神保町の駅員がたまたま布がらみジッパー開け名人だったとかいうミラクルが起きないものか。ないな。ミスターミニッツが助けてくれるかも!!…ああ、改札出ないとミスターミニッツには会えない。ダメだ。近くに座っている人が見るにみかねて「どれどれ、ちょいとわたしに貸してみなさい」とか言ってするする開けてくれたりしないものか。んなわけない。神保町の駅で事情を話して現金で払うしかない。朝の通勤時でパスモを使う時に事の成り行きを説明してパスモの処理をしてもらうのもめんどくさいな。
神保町の駅員に説明するシナリオを頭の中で描きながら布の絡んだジッパーをいじっていたらふとわずかに前進した。
曙町を通過したあたりだった。
よし!
パスモ取り出し成功!
電車は神保町に到着。
改札で軽やかにパスモをタッチするわたしがいた。