むかしむかし、原宿に行ったとさ。
「おニャン子クラブの内海がいる!」と誰かが言った。
そこにいた若者がどどどーっとそちらへ向かっていった。
友だちとわたしもその流れにつられ、なんとなく行ってしまった。
途中から列になった。
するとどう言うわけだからわたしの後の人がわたしにのしかかってきた。将棋倒し(今はドミノ倒し、とでも言うのだろうか)が起きたらしい。必死にこらえようとしたがわたしもバランスを崩して前にいた人にのしかかり、その人もバランスを崩した。再びわたしの後方がわたしにのしかかってきた。気付いた時、わたしは倒れたままの前の人を押し潰して立っていた。
「ああ、こんなもんかわたしの本性は」
これまたむかしむかし、田園都市線の溝の口の改札を出ようとしたら料金不足で出られなかった。朝だったか夕方だったか、とにかく乗客の多い時間帯だった。
自動精算機の前には長蛇の列。仕方がないのでひたすら順番を待った。
やっと自分の番が来た。まだパスモなどという気の利いたものがなかった時分。精算機に切符を入れた。精算額が表示された。10円足りなかった。財布には一万円札が一枚入っているだけで小銭は何もなかった。後ろを振り返るとぞろぞろ並んでいた。とっさに後ろにいた女性に「10円貸していただけますか?売店で買い物して返しますので」
呆気にとられながらその女性はわたしに10円を渡した。
結局その女性は雑踏の中に消えてしまった。
「ああ、こんなもんかわたしの本性は」