夜の8時頃、家の電話が鳴った。
母が応答する。
なんだか様子が変だ。
電話越しに男の声が聞こえる。
替わって、と言わんばかりに母がわたしに受話器を差し出す。
へっぽこ「もしもし」
男「ぶどう送ったんだけど宅急便着いた?」
へっぽこ「どちらにおかけでしょうか」
男「△△さん(鬼籍に入った父の下の名前)のところに…」
へっぽこ「どちらさまでしょうか」
男「〇〇(うちの名字)だよ。宅急便ついた?」
へっぽこ「どちらの〇〇でしょうか」
男「だから〇〇です」
へっぽこ「どちらにお住いの〇〇さんでしょうか」
男「え…かずだよ、誰だかわからない?」
へっぽこ「わかりません」
男「ほら、しんとか…わからない?」
へっぽこ「わかりません」
男「まさだよ??」
へっぽこ「わかりません」
男「はるだよ???」
へっぽこ「わかりません」
男がガチャっと電話を切った。
さっそく地元の警察に電話を入れた。
しばらくして男性署員が応答した。
今しがたの妙な電話の一連の流れを説明した。
「いたずらか詐欺でしょう」「ぶどうは今流行っていますからね」とのことだった。ぶどうはいまがシーズンだという意味だろうか。
同じパターンの電話がかかってきたケースがあるのか尋ねると「いやーぶどうはないですね」。
他の果物ならあるのだろうか。気になったが署員の手短に済ませたいんですけどオーラが感じられたので尋ねるのはやめておいた。
「それだけ対応したのでもう掛かってこないとは思いますが気をつけてください」
はいわかりました、と答えて電話を切った。
「ぶどうって聞いたからちょっとうれしくなっちゃった」と無邪気に母はのたまった。
ぶどうなら今シーズンは大枚叩いてシャインマスカットを数回買ってきたではないか、母よ…
明日買いに行くかな、ぶどう。