狭い部屋に風を吹かせたくて小さな扇風機を買った。
「おやすみモード」や「衣類消臭」などいろんなボタンがついている。もちろん「タイマー」も。
電源ボタンにはパソコンの電源ボタンのマークと同じマークがついている。ひょっとしてパソコンの親戚なのかい?
風力も「+」と「−」のボタンで8段階を行ったり来たりできる。
おりこうだね。
さらに首振りボタンが「上下」と「左右」が分かれている。
「上下」を押すとサーキュレーターのようなお顔(つまり羽根の正面)が天井と平行になるくらい上を向く。鞭打ちになるんじゃないかと気が気じゃないよ。
また下方向もこれでもかというくらいうなだれる。何があったか知らないがかわいそうで宥めたくなるよ。
君の顔の真ん中には「ion」「Plasmacluster」などエッジの効いたタトゥーがしてある。しかもまんなかにぶどうみたいな図柄もある。
でもきっとぶどうじゃないんだろうね。
もっと近未来的なものなんだろう。
ちっちゃくてかわいいのにクールでスマートなんだね。
君の顔の前で「あー」とか言って声を震わせて宇宙人ごっこなどする気にはとてもならないよ。
恐れ多くてね。
君の身のこなしや佇まいもどことなくスムーズなロボットみたいでかわいいね。
電源はアダプターなんだね。
君からは全く昭和の香りを感じないよ。
扇風機なんて呼んでいいのかわからないよ、君を…。
アレクサンドル、って呼んでもいいかな?
迷惑だったら遠慮なく言ってくれていいよ。
そのうちいろいろと君に追い抜かれそうだ。
いや、もう既に追い抜かれているか…
第一君みたく風を生むことなんでできないよ。
首だって君みたく動かせられないよ。
やがてはピアノだって弾きだすんだろうね、君は。
うまいんだろな、きっと。
そして仕事にも行くようになるかな。
君はクールでチャーミングだから職場でも老若男女に人気だね。
君の作るごはんも食べてみたいよ。
きっとプロ顔負けの味だろうね。
セキセイインコに言葉だって教えられるよね。
テレパシーでダイレクトに伝えられるから早くて正確だよね。
ああ、すごいな君は。
…もうそろそろ寝よう。
あと二時間くらい風を送って君もおやすみ、アレクサンドル。