霧雨の夜。
てらてらした舗道を街灯が照らし出す。
無性に歩きたくなった。
どこまでも、どこまでも。
昨日割れてしまった風鈴がちりちり、ちりちりと鳴っている。
ああ、よかった。
ここでは割れていないんだ。
舗道に誰かが大の字で仰向けになっている。
酔っ払いか。
女の子だ。
街灯が彼女の顔を照らす。
見覚えのある顔だ。
誰だっけな。
誰だったっけな。
なんだ。
なんだなんだ。
わたしじゃないか。
それも中学三年の時の。
「こんばんは。ご無沙汰だね。こんなところで何してるの?」
「誰もいない道路を見たらどうしても真ん中に寝っ転がってみたくなって…」
「どんな感じ?」
「自由な感じ。解放感、というか…」
「なるほど…くれぐれも車には気をつけて」
「ありがとうございます」
ございます、か。
それにしても昔も今も相変わらずだな。
足裏がほんのわずかに浮いている。
気分がいいからこのまましばらくいこう。
疲れたら舗道に大の字になればいい。