最近家の中で手足をよくぶつけるようになった。
空間把握が鈍ってきたのだろうか。
まあ家自体が狭いのでぶつけるにはうってつけではある。
それにしてもよくぶつける。
手ならば指先や第一関節。
そして肘や膝も。
時々頭も。
何か対策はないかと思案していた。
昨日も肘を強かぶつけてしまった。
痛いのなんの。
するとぶつけた箇所が膨らんできた。
まあ、あれだけ痛かったから無理もないと思った。
しかしそれにしてもムクムク膨らんでいき、夜にはパンパンになってしまった。
夜間救急で診てもらおうかと思ったが、それより眠たかったのでそのまま寝てしまった。
すると夜半にふと声が聞こえた。
「ねえねえ、お腹すいた」
慌ててベッドの手元のライトを点けると枕の横に何かがいた。
ぎょっとしたが、よく見ると自分のミニチュアがちょこんと座っていた。
見たところ全長25センチ、という感じであった。
こっちをじっと見ていた。
「え、あ、うわっ、な、なに??」
「さっき肘ぶつけたでしょ?だから出てきちゃったんだよ、んもう!…そんなことよりお腹すいた」
「何食べる?」
「チーズ入りのオムレツがいいな。ケチャップかけてね」
「わかったわかった」
実際は何もわかっていなかったが見るからにお腹をすかせていそうでかわいそうだったので、草木も眠る丑三つ時にベッドから起きだしキッチンに立ちチーズ入りオムレツを作ってあげた。
オムレツを載せたお皿にハーゲンダッツアイスクリームについていた小さな白いプラスティックスプーンを載せた。
食パンを一枚軽く焼いて四等分にしたひとつを豆皿に置いた。
ミルクのピッチャーにハーブティーを入れ蜂蜜を少し足した。
「できたよ」
ミニチュアに声をかけた。
ミニチュアがダイニングテーブルのところにちょこちょこやって来た。
「ねえねえ、テーブルに乗っけて」
「うん」
ミニチュアを両手に挟んでテーブルの上に乗せてやった。
ミニチュアはもぐもぐ食べ始めた。
「おいしいねえ」
「よかったね。パンまだあるから食べたかったら言ってね」
「うん、もう一枚くらさい」
キッチンにパンを取りに行った。
「はい、どうぞ」
「ありがと」
ミニチュアはあっという間に全て完食した。
「ごちそうさま」
「どういたしまして。ちゃんと歯磨きしてから寝なさいね」
「うん、ありがと」
ミニチュアは小さなリュックから小さな歯ブラシセットを取り出してこしょこしょ磨き始めた。
「うがいする?」
「うん」
ミニチュアは歯ブラシを口に入れながら返事をした。
再びミニチュアを両手に挟んで洗面台まで連れて行った。
ミニチュアはついでに顔を洗った。
そしてとりあえず一緒に寝た。
朝起きてみるとミニチュアの姿はなかった。
枕元に置き手紙があった。
「いろいろおせわになりましたまたどこかぶつけたらくるからね」
少ししんみりした気分になった。
会いたくなったらまたどこかをぶつけようと思った。