化粧水が切れた。
ドラッグストアに買いに行くがいつもの棚を探しても見つからなかった。
店員さんに聞いたら
「あ、あれですかぁ…製造中止になっちゃったんですよ〜すいません」
仕方がないから他のものを探した。
とりあえず新発売の「赤ちゃん肌になれる」という化粧水にした。
…というのがひと月前のことだった。
確かにお肌がいい感じにプルプルしてきた。
今日は墓参り友だちとひと月ぶりに会うので表参道まで一輪車で行った。待ち合わせ場所に行くと友だちは三輪車に乗って待っていた。
最近流行りの廃墟カフェに入った。
スタッフもどこもかしこも程よく朽ちておしゃれな廃墟感が出ていた。
「元気にしてた?」
「まあボチボチね。あなたは?」
「ま、相変わらずね」
「いやいや。なんかいいことあったんじゃないのぉ〜??」
「いいことぉ?ん〜?昨日京王線に乗ったら京王ライナーの車両だったなそーいや」
「もーう。そういうんじゃなくてさぁ…男前な茶飲み友達できちゃったとかさ」
「ないないなーい。なんでよ?」
「いや、お肌が随分とプルプルになってきたなぁと思ってさ」
「あらそう?実は化粧水変えたのよ。前使ってたのが製造中止になっちゃってさ。そう、今度の化粧水は赤ちゃん肌になるんだって。」
「それでなのかなぁ…ほーんと、赤ちゃんの肌みたいよね、ちょっと触らせて」
「いいよ、ほら」
「わあ、ホワホワじゃんホワホワ!でもさぁ…なんか随分顔もパーツもちっちゃくなったよね。」
「やっぱりそう思う?実はわたしもそう思っててさ」
「体はちっちゃくなってないのにねぇ」
「なんか変だよね、顔だけ小さくなるなんて。」
「その化粧水なんて言うの?」
「バブアバ化粧水」
「バブアバ…なんかどっかで聞いたことあるなぁ…バブアババブアバ…あ!!」
「なに??」
「ヤバいやつじゃなかったそれ?!使い続けると顔だけ赤ちゃんになっちゃうとか言われてるやつ!知らないのぉ??」
「え、なにそれ…」
「お肌がプルプルになるからみんな喜んで使っているうちにお顔とパーツがちっちゃくなっていって赤ちゃん顔になっちゃった人が続出してるらしいよ」
「え、うわぁ、ど、どうしよう?」
「バブアバ化粧水の社長は『肌だけ赤ちゃんになりたいなんて虫が良すぎるんじゃボケ』の一点張りなんだって。まあ確かにそうだよね」
「まあそうだけど…いやー困ったなぁ」
「でも案外悪くないよ、その顔」
「そう?」
「うんうん、全然イケる!」
「そっか、じゃあ気にしなくてもいいね!」
「大丈夫大丈夫」
廃墟カフェを出てしばらくあたりをふらふらした。
すれ違う人の顔の中にも結構赤ちゃん顔の人がいるのにびっくりした。みんな「バブアバ化粧水」ユーザーなのだろうか。
友だちと別れてから一輪車を畳んで電車で家まで帰ってきた。車内にも何人か赤ちゃん顔した大人がすました顔で座っていた。