小人が訪ねてくるようになってかれこれひと月になる。
夕方の5時半に来て9時前には帰って行く。
まるで愛人宅を訪れるかのような流儀である。
今日も時計が5時半になるとドアの下の方をコンコンと叩く音がした。
小人だからドアチャイムは高くて届かない。
ドアを開けた衝撃で小人を吹っ飛ばさないように慎重に開ける。
最初の頃は加減がわからずよく小人を吹っ飛ばしては怒られていた。
「コンバンハ」
「あ、こんばんは」
「キョウハナニシテタ?」
「特になにも…」
「ダメダナァ〜ソロソロ、クビヲククッテシッカリイキナクチャ」
「それを言うなら『はらをくくって』だろが」
「ア、マチガエチャッタ」
「まあいいよ、ご飯できてるから」
「ワア、オナカスイテタンダ、ウレシイナ」
小人が靴を脱いで揃えて部屋に入ってくる。
「はい、今日の夕飯はドライカレー」
「ワ、オイシソウ!イタダキマス」
「どうぞ、召し上がれ」
小人は実においしそうに食べる。
そしてどういうわけか食事の時だけ小学校五年生くらいの大きさになる。
「サア、キョウハサラヲワッテハナソウ!」
「皿割ってどうするん?『皿』じゃなくて『腹』ね」
「ヘエ、ソウナンダ!ジャ、ハラヲワッテハナソウ」
「何話すの?」
「ハンギョジントニンギョ、ドッチニナリタイ?」
「そりゃ人魚でしょ?マーメイドよ、マーメイド」
「オサンポデキナイヨ」
「だね。足ないもんね。でも半魚人じゃ上半身が魚だよ」
「カオモ?」
「そうだよ、顔もだよ」
「ソウダッタンダ!ジャ、シノゴノイワズニニンギョガイイネ!」
「そうだね、しのごの言わずにね」
小人との会話はいつもこんな風だ。
「ジャ、マタアシタネ!」
小人はしゃなりしゃなりと帰って行く。
どこに帰るか聞きたくてたまらないけど、聞いてしまうと二度と来なくなりそうなので、敢えて聞かないことにしている。