左手が休みなく分散和音を繰り返す曲を楽譜を見ながら弾いていた時のこと。
分散和音…という言葉の響きがとても好きだ。涼やかな甘やかさを発音するたびに感じる。
それはさておき、左手は分散和音を弾いていた。跳躍のやや大きめな分散和音。
次第に左手が音を外すようになった。
どんどん外すので猛烈にイライラしてきた。
イライラしすぎて結局ピアノを弾くのをやめた。
こんなことは久しぶりだ。
炊飯器でケーキが出来上がるのを待ちがてら弾いていたからだろうか。
でも不思議だったのが頭はイライラしていなかったことだ。
じゃあどこがイライラしてたのか。
左手がイライラしていたのだ。
肘から手にかけてのあたりだ。
ジストニアという病気というか症状がある。
楽器奏者に多いと言われている。
手指である動きをしようとすると固まって動かなくなるのだ。
日常的には不便はない。
しかしその動きをしようとするとうまくいかない。
ジストニアの症状をなるべく出さないようにするには手指の筋肉や筋やら神経やらが好きな動きをしてあげるのがいいらしい、とどこかで読んだことがある。
左手が好きな動きってどんな動きだろう。
左手に聞いてみた。
「一定リズムを刻むことは本当に嫌い」
そっかそっか。わたしも嫌いだよ。気が合うね。
「自分のテンポで、自分の間合いで自然に弾きたいんだよ」
うんうん。わたしもおんなじだよ。気が合うね…