毎朝朝食の準備で卵を割る。
鶏の卵だ。
割った中身を味噌汁茶碗に入れてクルクルかき回したり、茶碗に入れずにそのままフライパンで目玉焼きにしたりする。
今朝は卵を割って味噌汁茶碗に落とした。
「ん?なんか違うな」
思わずひとり呟いた。
黄身の形が三角だ。
家の者にも見せると、
「あれ?!なんで三角なの??気持ち悪いね。捨てちゃえば?」
「大丈夫じゃないの?試しに食べてみるよ。」
先日うちに来たばかりの鳥かごの中のミニチュア宇宙人にも見せてみた。
するとダッシュでカゴの入り口付近に飛びついて来た。
「プポッ、プポポポポ。ププポポポプポポ」
普段は黒目がちな目に白目を交えてこちらを見て何かを懸命に訴えていた。
こんな必死なミニチュア宇宙人は初めて見た。ダミーのセキセイインコのおもちゃを見せても微動だにしなかったのに。
キッチンに戻り調理を再開。
折角なのでかき混わすのをやめ目玉焼きにしてみた。
黄身が崩れないよう細心の注意を払ってほろんとフライパンに流した。
黄身は依然として三角形を保っていた。
水を少量かけて蓋をして弱火で待つこと数分。
地味にドキドキしながら蓋を開けるとそこには目玉焼きが完成していた。
いや、正確には目玉焼きではない。黄身が三角だ。これは何焼きと呼ぶべきか…三角形のもの、三角形のもの…「イカの頭焼き」…これでは「イカのげそ焼」の二番煎じ感満載だ…などと考えながら食した。味は黄身の丸い目玉焼きとほぼ一緒だった。
「黄身が三角形の卵」で検索してみた。
目ぼしいものに突き当らなかった。
お客様相談センターに相談することにした。
その卵が入っていたパッケージにフリーダイヤルの番号が書いてあった。
早速電話をかけた。
「お問い合わせありがとうございます。ただ今オペレーターにお繋ぎしています。尚サービス向上のためにお客様との通話の内容を録音させていただきます。」という自動音声が応答した。
まもなくオペレーターが出た。
「お待たせいたしました。お電話ありがとうございます」
「あ、お願いします。そちらの卵のことなのですが」
「いつもご愛顧ありがとうございます」
「いえいえ。実は今朝卵を割ったら黄身が三角だったのであれーっと思ってお電話したのですが」
「そうでしたか。それは多分ミニチュア宇宙人系のニワトリが産んだ卵かと思います。お召し上がりになっても健康には問題ございませんのでご安心ください」
「ミ、ミニチュア宇宙人系のニワトリですか?!」
「はい、そうです。従来のニワトリと見た目はほぼ同じなのですが、養鶏場のオーナーさんたにが口々に『ニワトリの割には遠い目をしている』『ニワトリにしては落ち着いた佇まいがある』と言っているそうです。」
「うちにもセキセイインコにそっくりのミニチュア宇宙人がいるんですが…」
「ああ、そうなんですか。近頃流行っていますからね、ミニチュア宇宙人系。なので普通に召し上がっていただいて構いませんので」
「わかりました。ありがとうございます」
「いえいえ。こちらこそお客様にご心配をおかけして申し訳ありませんでした。これからも我が社の卵をよろしくお願いいたします」
「はい」
「では失礼いたします」
「はい。いろいろお世話様でした」
電話を切った。
うちのミニチュア宇宙人はミニチュア宇宙人系セキセイインコに属するのだろう。そこまでペットショップの店員さんは説明していなかったが。
だからあんなに反応していたんだ、うちのミニチュア宇宙人が…黄身の三角の卵に。