今日は白い花を持って友だちの家に行った。
とても熱い太陽が照り付けていた。
駅から友だちの家の行き方はなんとなく覚えているようでおぼろげだった。
今までは駅まで友だちが迎えにきてくれていた。
今日は迎えに来てくれなかった。
見覚えのあるスーパー。
この道をどっちの方向に行くんだっけなぁ。
花の入れてある紙袋の内側に、友だちの家の住所を手書きした付箋を貼っておいた。
電信柱の住居表示と付箋の住所を照らし合わせる。
こっちでよさそうだ。
するとこれまた見覚えのあるラーメン店が見えた。
ここまで来ればもうわかる。
オートロックのボタンで部屋番号を押した。
しばらくして応答があった。
玄関のインターホンを押すと、友だちの旦那さんが出てきた。
挨拶を交わして部屋の中に入った。
友だちはベッドの上で眠っていた。
くるりんとして愛らしい目はもう開かない。
鈴を鳴らしお線香に火を灯し手を合わせた。
それから水に浸した真綿で唇を湿らせた。
まだやわらかい。
よくお喋りする唇はもう動かない。
闘病、大変だったね。
お疲れさま。
ほんとうに。
実際に友だちの亡骸と対面したら涙の一つも流すのだろうかと思っていたが、不思議とそういう風にはならなかった。
友だちが気を遣ってくれているのがわかった。
なんとなく聴こえてくる友だちの声や気配と会話したような感覚だった。
透明な可愛らしさと真っ直ぐな気持ちを持った賢いおもしろい人だったな。
またどこかで会えるといいな。
それまで覚えていてくれるかな。
忘れているようだったら自己紹介しよう。
実は昔に友だちだったことがあるんだよ、って。
どうぞ安らかに。
ありがとう、今まで。
またね。