服を売りにブックオフまで。
道すがらハトがイチャイチャしていた。
そういえば一週間くらい前も駅のホームで鳩がイチャイチャしていた。
ソーシャルディスタンスはハトには無用。
買取の計算が終わるまで古本のコーナーをフラフラしていた。
楽譜が置いてあった。
ハノンが三冊ほどあった。
言わずと知れたピアノのテクニック本である。
シャルル・ルイ・ハノンさんが書いたから『ハノン』と呼ばれている。
1番と31番と60番は名曲だ、と個人的には思う。
特に60番はハノンさんのロマンティックさが炸裂している。ただのテクニック習得本じゃないぞ、という気概を感じ胸が熱くなる。
さて、ブックオフの棚にあるハノンたち…どんな経緯でここにたどり着いたのか…
きっとブックオフの倉庫にも棚に並べられる日を待っているハノンたちがさらにいるかも知れない。
それぞれの中身を見てみようと思ったが、コロナ禍の折、あまり不必要に商品に触らぬほうがよかろうと思い直した。
たとえばある日、お茶の間で漫然とテレビを見ていたら『駅ピアノ』の番組が始まった。
みんな楽しそうにピアノを弾いている。
そんな様子を見ているうちにこんなことを思い始める。
ピアノ弾けるのっていいよなぁ…
自分も駅のピアノとかでサラリと弾いてみたいよな…
ピアノ弾けるようになりたいかも!
かもかもかもかも!!!
…と思ってピアノを習いはじめたはいいものの途中で脱落。
「じゅりちゃんも習ってるからわたしもピアノやりたーい」と子供が言ってきて、「ピアノが弾ける子供がいてもいいな」…と親も夢見て習わせたはいいものの途中で脱落。
…などなど。
同じような境遇の全国のハノンたちを思うと切なくなる。
そういえば先日、近所の商業ビルのエスカレーターを降りていると前に夫婦連れがいた。旦那のほうが楽器屋の袋を持っている。袋の中にハノンが透けて見えた。
「ピアノ始めたんだな、この人。すごいワクワクしている時期なんだろうな。ハノンが大事にされますように」
と余計なお世話だが心の中でお祈りした。