最初にあなたと出会っていたら、わたしの人生はもう少し変わっていたかもしれません。
あなたの差し出すものは何もかも美しく響くのです。
どれひとつとっても…
その心地よさといったらもう何ものも敵わないのです。
人生も半ばを過ぎた、頭も耳も顔もぼんやりしかけたこんな頃に出会うなんて…
いや、実は随分前からあなたのことは知っていたのです。少しだけ近づこうとしたこともありました。けれども…あなたはまるで険しく高い山のようでした。そのころのわたしには勇気と根気がなかったのでしょう。近づき難くて後退りしてしまいました。
つい先日、知り合いから偶然送られてきた動画であるジャズピアニストがエレピで何かをを弾いているのを耳にしました。
なんて美しい浮遊感なのだろう…しかもこの世のものとは思えない気品と優雅さと粋に満ちた響き…
これはそう、あなた、ラヴェルさんの『水の戯れ』でした。
すっかり忘れかけていたあなたとの再会でした。
この日からまたわたしの中にあなたが住み続けるようになりました。
あなたのことを知りたくて、あなたの作品の音源を取り寄せ、本を探して、譜読みして…という日々が始まりました。
あなたの楽譜は相変わらず高くて険しい山のようです。
けれどもそこにある音符の音を出す度に妥協のない品のある美しい響きが立ち上がるのです。
そしてその度にうっとりとしてしまうのです。
ああ、生きているうちにこんな響きを体験できてよかった…と心から思うのです。
あなたの音たちにもっともっと早く出会っていたらわたしの音も変わっていたかもしれません。
いや、でも…もしかしたら…やっとあなたの音を味わえる時期がやってきたのかも知れません。
けれどもやっぱり早く会いたかった…
バイエルさんやツェルニーさんと見合いをさせられた時期にあなたに会っていたら…
その時分に同じく見合いで出会ったブルグミュラーさんは美しいなとは思いました。でも…でも…何かが足りなかったのです。
そう、もっともっと違う響きがあることはわかっていたのです。そしてそういう響きに焦がれていたのです。
小さな頃や中くらいの頃には、手元にあった楽譜や学校の音楽の教科書などをくまなく探してみたりはしました。けれど見つからなくて…どこにあるのかも何という名前のものなのかも分からずにただ悶々としていたのです。
長じていくうちにいろいろな音楽と知り合って、その中でいろいろな響きとの邂逅がありました。
そして…ラヴェルさん。
あなたの音楽の中には、何というか、ほとんどの音楽的要素が結集しているように思える今日この頃なのです。
遅まきながらあなたにこうしてお目にかかれて本当に嬉しく思います。
険しく高く美しい山を少しずつため息をつきながら登っていこうと思います。
ありがとうございます、ラヴェルさん。
これからもよろしくお願いいたします。