家族旅行というものに行ったことがない。
父はずっと病気を抱えながら企業勤めをしていた。
弟は生まれながら障がいを抱えていた。
母は二人の世話に追われていた。
わたしはそんな中で家族になるべく負担をかけないようにとずっと考えていた。
弟は二十歳になると施設で暮らすようになった。
父は定年直後にこの世を去った。
母は還暦を過ぎたあたりから原因不明の体調不良が十年以上続いている。
そんな母を支える日々が続いている。
衣食住とピアノを与えてくれた家族には感謝している。
中学の頃、家庭科で「理想の部屋」というのを考えで絵にする授業があった。
机があってベッドがあってグランドピアノがあってステレオがあって…という絵を描いた。
今の部屋は、机こそ狭くて置けないが、小さめのベッドと小さめのグランドピアノとステレオのある部屋になっている。
ピアノに会いにこの世にやってきたのかなと思う時がある。
この世に来る時にそれ以外のものは求めなかったのかもしれない。
そう思うとしっくりくる。
この歳になってくると、何となく自分の運命の輪郭が見えてくるような気がしている。
人生とはどうやら相対的なものではなく絶対的なもののようだ。
妙にいじけた気分が出てくる時は相対化してしまっている時だ。
自分の運命を出来る限り見極める。
直観的に。絶対的に。