今日は友人のピアノ教室の発表会のお手伝いに行ってきた。
毎年頼まれてお手伝いしているのでもう年中行事になっている。
ありがたいなと思う。
弾いている生徒さんたちの後ろ姿をステージの袖から見るのが好きだ。
小学生から中学生のひとたちが大きなグランドピアノを無心に弾いている。
あの時代でなければ弾けない素直な弾き方。
その素直さの中にハッとするような表現がある。
子供の頃に出たピアノの発表会で今でも心に残っていることがある。
発表会で弾く曲として先生から平吉毅州の『夏の夜のハバネラ』という曲の楽譜を渡された。
家に帰って早速ピアノで鳴らした時、衝撃が走った。
そうそう、こういうのを探していたんだよ、このメロディとハーモニーの感じを…
今まで弾いてきた曲には出てきたことのない、ジャズっぽいテイストがあった。
ジャズなんていうものがあることも知らなかった小学生はただただその音にうっとりした。
レッスンのたびに先生は「もっとハバネラのリズムをくっきり出して」というのだが、どうもルバート気味にしてしまったり音を溜めてしまったり音を付け足して引っ掛けたりしたくなってしまうのだ。挙げ句の果てには「こんな感じに弾くのよ」と模範演奏の音源を渡された。
聴いてみたものの「つまんない弾き方だなぁあ」と思った。
この楽譜はどうしても色っぽく弾きたくなってしまうのだ。色気とは無縁の小学生だったが、音に関しては早熟だったのかもしれない。
レッスンでは仕方なく先生の指示に従った。
「ほんとはこう弾きたいのになぁ…」
練習するたびに想いは強くなったが、レッスンでは可能な限り我慢した。
さて、発表会本番。
ステージに上がってしまえばもう誰も文句を言えない。
思いっきり好きなように弾いた。
結果としてリズムのゆるいあまったる〜い演奏になった。
「そう弾きたかったのね」
と言って先生は苦笑いをした。