6畳あるかないかの部屋の中に小さなグランドピアノが置いてある。
ピアノの真横にはベッドがある。
夜中寝ている間にピアノのひんやりとした感触がすることもしばしばだ。
グランドピアノは広い綺麗な家に置くものだ、と結構な間思っていた。
グランドピアノを持つことは夢だった。
ある時、家族がほとんど音楽関係である友人の実家に伺う機会があった。
3LDKくらいのふつうのマンションだった。
当時友人以外の家族4人がそこで一緒に暮らしていた。
リビングに通された時、リビングに接した部屋一杯にグランドピアノが置いてあるのが目に入った。グランドピアノの上には楽譜や書類が所狭しと置かれていた。
「父の仕事部屋なの」
と友人が言った。
グランドピアノも音楽も特別なものでも贅沢なものでもなく普通の日常の中にあっていいんだよと教えてもらったような気がした。
その部屋の光景はその後の人生に深く根差した。